ECの物流に関する課題は、取り扱い商材や店舗の形態などによって違いがあります。今回は、アパレル業界に焦点を当て、アパレルECの物流に関する課題と解決策を考察していきたいと思います。
アパレルECでは、近年、実店舗メインで展開してきた企業がECに参入するパターンが増えています。ECのみの運営でも、多店舗展開は在庫管理や受注、出荷など業務が煩雑化しやすいですが、ここに実店舗が絡むと、より複雑になります。
一方で、煩雑化しがちな業務をうまく効率化できれば、実店舗とEC店舗の両方を運営していることは、強みになります。業務を効率化するための鍵は、外注サービスの活用と出荷の自動化です。
本記事では、実店舗を含む運営を行うアパレルECで起こりやすい課題とその解決策を提示すると共に、外注サービスや出荷の自動化を検討する際に注意すべきポイントをまとめます。
■実店舗発のアパレルECの特徴
アパレルECの形態としては、次のようなパターンが考えられます。
・自社ECのみ…大手アパレル通販企業が多い
・自社ECと実店舗…実店舗発の大手アパレル企業が多い
・実店舗とモール出店…実店舗発の中小アパレル企業が多い
・実店舗とモール出店・自社EC…実店舗発の中堅~大手アパレル企業が多い
・モール出店のみ…スタートアップ~中小アパレル通販企業
・自社ECとモール出店…中堅アパレル通販企業
最近はECの「オムニチャネル化」が進んでいますが、アパレルECでは「実店舗とモール出店」「実店舗とモール出店・自社EC」といった、実店舗を含む多店舗展開が増えています。
その場合、もともとは実店舗メインで、EC市場の拡大とECユーザーの増加を受け、まずはモールに出店、そこから軌道に乗ると他のモールや自社ECを立ち上げるといった流れが一般的です。
最初に出店するモールとしては、出店や運営を省力化できるAmazon.co.jpや、初期費用・手数料無料でコストを抑えられるYahoo!ショッピングが選ばれることが多くなっています。
また、楽天市場も依然大きな市場であり、他のモールに比べるとややコストや手間はかかりますが、いずれかのタイミングで出店を考えることが一般的です。その他、Wowma! などに出店するケースもあります。
ブランド力のあるアパレル企業では、ZOZOTOWNへの注目度が高いですが、ZOZOTOWNは現時点では自ら申し込んで出店することができず、ZOZOTOWNからの勧誘待ちになるため、まずはAmazon.co.jp、Yahoo!ショッピング、楽天市場への出店が主流でしょう。
■実店舗を含むEC運営の課題と解決策
新たにECを始める場合、順調に成長していくためには、EC担当者が売上に直結する施策に注力する時間がどれだけあるかが重要です。
しかし、実店舗発でEC店舗を運営する場合、いきなりEC専任の担当者を置くのではなく、他の業務を持っている人がそのまま兼任でEC運営に当たるというケースも多いかと思います。また、最初は実店舗の在庫から出荷するということも多いでしょう。
その場合、担当者の業務量が多すぎて日々の受注と出荷を回すだけで精一杯で、売上につながる施策を行えず売り上げが伸び悩む、また、セール時や繁忙期に受注や出荷が間に合わず、遅延や誤配などのミスなどにより顧客の評価が下がってしまうといったことが起こりがちです。
モールでは、配送に関する品質低下、顧客からの低評価は、ペナルティにつながることがあり、重大問題です。
さらに、アパレルECでは、サイズに関する問い合わせや、返品・交換に関する問い合わせなどが多いという特徴があります。配送遅延や誤配が起これば、それに関する問い合わせも加わり、現場はパンクしてしまいます。
そうなる前に、出荷業務のアウトソースが必要です。EC運営のみの場合も、出荷関連の業務が一日の業務の半分以上を占めるようなら、アウトソースした方が良いのですが、実店舗もある場合は、最初からアウトソースしておいた方が良いでしょう。
■アパレルEC・実店舗の物流外注ポイント
在庫の「一元化」が重要
実店舗・EC含め複数の店舗を運営している場合、物流関連の業務を外注する際にまず重要なのが「在庫の一元化」です。実店舗もEC店舗も一つの物流倉庫に在庫を一元化し、在庫を連動されることができれば、それがベストです。
物流倉庫が複数に分かれていると、他の倉庫に在庫はあるのにそこからは出荷できずに売り逃してしまうことや、在庫データの反映が遅れ、欠品なのに注文を受けてしまいクレームになるといったことが起こりやすくなります。
在庫の一元化ができる外注サービスとして、Amazon.co.jpに出品している事業者がよく利用するのが、FBAマルチチャネルサービスです。FBAマルチチャネルサービスでは、Amazon以外の販売チャネルの商品の出荷・配送・在庫管理を、Amazonが代行するサービスです。
ただし、実店舗発のEC運営の場合、実店舗の在庫管理の仕組みがすでに出来上がっており、FBA倉庫の利用が難しいという場合があります。
他にも、商品ラインナップや、商品の管理方法が、FBA倉庫に適さなかったり、流通加工を必要としたり、アパレルECで多いささげ業務(撮影・採寸・原稿作成)まで依頼したいという場合は、それらの条件に対応する別の倉庫を探す必要があります。
おすすめは受注も含む出荷の自動化
では、数ある物流倉庫の中から自社に合った倉庫をどう選ぶべきなのでしょうか。前述の、可能であれば「在庫の一元化」ができることと、そして、自社の商品の管理・流通に必要な条件を満たす倉庫ということは、まず前提となります。
その上で、出荷を「自動化」できると、業務効率がとても良くなります。
出荷の自動化では、入庫やピッキング・梱包といった出荷関連の業務を外注するだけでなく、受注から物流倉庫への出荷指示、出荷時の連絡や出荷後の在庫反映までをシステムにより自動で行います。
出荷を自動化するサービスもいくつか種類があり、特定のモールやEC基幹システムに特化したサービスや、自社で物流倉庫まで持っているサービスなどそれぞれに特徴があります。ただ、実店舗を含む多店舗展開の場合、モール・EC基幹システムと、物流倉庫、双方の選択肢が広いサービスの方が、対応しやすいように思います。
また、受注から出荷まで完全に自動化できると楽なのですが、人の目でチェックが必要な部分や、備考欄などにお客様からのご要望などが記載されることが多いようであれば、手動で行うところと自動で行うところをうまく切り分けられるサービスが、使い勝手が良いでしょう。
カスタマーサポートなど人の対応も重要
出荷に関して、毎日それなりの量を扱っていれば、多少のトラブルが起こることはあります。自社の問題だけでなく、モールや基幹システムの事情であったり、物流倉庫の事情であったりでトラブルが起こることもあるかもしれません。
そんな時に、素早くかつ丁寧に対応してもらえるかということも重要です。万が一物流が止まってしまうことになれば、大きな損害が出てしまいます。
導入時の案内は丁寧か、また、導入後も不明点にすぐ対応してもらえる体制があるかなども、チェックしておきたいところです。
■出荷を自動化するメリット
出荷業務をアウトソースして出荷を自動化するメリットは、やはり業務の効率化・省力化です。しかし、それが最終目的ではありません。限られたリソースを圧迫していた業務を効率化・省力化し、売上に直結する施策に注力することで、売上を向上することが最終目的です。
また、専門の物流倉庫が出荷業務を行い、システムによりリアルタイムにデータを反映することで、配送に関するミスを減らし、配送品質が上がることもメリットです。
配送品質が上がれば、顧客満足度も高まりますし、Amazonの「プライム」、Yahoo!ショッピングの「あすつく」、楽天市場の「あす楽」のような即配サービスへの対応も可能です。これも、売上向上に寄与するでしょう。
他にも、人手不足や、長時間労働が問題になる業界にあって、スタッフの負担を軽くできるということもメリットです。自動出荷を活用すれば、セール時でも出荷が終わらないといった事態も防げますし、受注・出荷にただ追われるより、販促など売上につながる業務にあたる方が、モチベーションも高まります。
業務の効率化・省力化ができれば、実店舗・EC店舗の両方があることは強みになります。実店舗で直接お客様とコミュニケーションを取ることは、EC店舗にも活かせます。また、最近では、実店舗で試してEC店舗で買うといった購買行動をする消費者も増えています。双方の垣根をなくし、弱点を補い合うことで、相互に売上を伸ばすこともできるのではないでしょうか。