EC事業の中でも個人や小規模で参入しやすい形のひとつが、転売ビジネスです。特にEC事業の入口として多いのが、海外から輸入した商品をAmazonで販売するというものです。EC業界の拡大とともに個人でも手軽に始められるサービスが登場し、こういった転売ビジネスの成功例もよく耳にするようになってきました。
一方で、手軽に始められるということは、今後さらに多くの人が参入してくる可能性が高いということでもあります。転売ビジネスだけで今後も同じように利益を上げていくということは難しくなるかもしれません。また、EC店舗としてブランディングをしていきたい、ただ利益を上げるだけでなく、店舗として成長していきたいということであれば、自社ブランドのPB商品の開発を考える必要があるでしょう。
本記事では、転売ビジネスのメリットとデメリットを踏まえて、EC店舗として他店舗と差別化を図り、ブランド力のある店舗として成長していくためにはどうすれば良いのか、事例と共に紹介していきます。
簡単だから普及する、転売ビジネス
転売ビジネスのメリットは、とにかく簡単に始められるということです。独立したビジネスとしてだけでなく、副業としても、お小遣い稼ぎとしても始めやすいものでしょう。扱われる商品のジャンルも多岐にわたります。
EC事業としてよく行われる形としては、日本で普通に使われる商品を中国や東南アジアから安く輸入したり、日本にあまり出回っていないアメリカやヨーロッパの商品を輸入したりして、日本国内で販売する形です。
販売先としてよく使われるのは、Amazonです。Amazonに出店、出品した経験のある方はよくご存じかと思いますが、Amazonは必要な商品情報を登録しさえすれば出品ができ、ページ作成の手間があまりかからない上、受注・出荷・カスタマーサポートといった店舗運営業務も代行してもらえるFBA(フルフィルメント by Amazon)というサービスがあります。コストも抑えることができるので、競合の少ない商品を見つけてくることさえできれば、しっかりと利益を出すことも難しくありません。
普及とともに競争も激化、差別化のためPB商品へ
ただ、EC業界の成長により、個人でも法人でも新規参入は増え続けています。転売ビジネスは参入者が少ないうちは手間をかけずに利益を上げることができますが、参入者が増えるにつれ、商材の見つけ方、価格の付け方が難しくなっていきます。
特に、Amazonをはじめとしたモール出店では価格競合になりがちです。また、自社のコントロール下にないところで製造された商品を仕入れるという形は、仕入元の状況に入荷を左右されるので、ビジネスとして安定しない部分が出てきます。
そこで、事業の成長を考えるときに外せないのが、自社ブランドのオリジナル商品、PB商品の開発です。もちろん、何でもPB商品にすれば良いというわけではありませんが、価格競争を脱し、自社のブランドを確立するためには、PB商品が大きな力となります。独自のEC店舗として成長していきたいのであれば、転売のための商品を探すのに手間暇をかけるよりも、PB商品の企画に注ぐべきでしょう。
PB商品開発の始め方
PB商品を開発するには、まず、何を扱うかから始まります。PB商品の開発には、時間も人手もコストもかかります。いくらオリジナルの商品でも、他の人、企業がすぐに真似できるものでは意味がありません。
ここで、Amazonでの転売ビジネスを経て自社ブランドを立ち上げ、PB商品の開発、販売で売上を伸ばしている、T社の事例を紹介すると共に、PB商品で成功するためにはどういうポイントがあるのかを見ていきたいと思います。
設立2年目で年商1億以上を目指す!PB商品開発の事例
T社の代表のIさんはもともと会社員でしたが、副業で海外(中国)からの輸入品をAmazonで販売するという輸入転売ビジネスでEC事業を開始しました。転売ビジネスではそれなりに売上を上げていましたが、今後のことを考えて、他社と差別化のできる商品を扱いたいと考えていました。
そこで、Iさんは独立をしてT社を立ち上げ、新たなEC店舗をスタートさせました。扱う商材は、国産の有機食品や健康食品です。転売ビジネスではさまざまな商品を扱ってきましたが、競合との差別化ができ真似されにくい商品として、この商材を選んだそうです。
商品開発にあたっては、気になる食材を見つけたら、生産地を調べ、生産者さんに直接連絡を取り会いに行って交渉をするという、ある意味アナログな方法が取られました。もともと人と話すのも好きなIさんは、各地の生産者さんと信頼関係を築き、オリジナルのPB商品を順調に増やしています。
T社では現在、2つのモールに出店し、Iさん含め数人体制で運営しており、自宅兼オフィスで事業を行っています。EC店舗運営で時間が取られがちな出荷関連業務は自動出荷のできるサービスにアウトソースしており、Iさんは全国の生産者さんを回り商品開発を行ったり、ページ作成を進めて新たなモールや自社サイトを立ち上げたり、売上を伸ばすための施策に注力しています。
立ち上げから2年目ですが、売上1億円以上を目指せるところまで成長しており、多店舗展開や食品以外のジャンルでのPB商品開発など、今後もさらなる成長を見込んでいます。
事例から分かるPB商品開発のポイント
T社の事例から分かるPB商品開発のポイントとしては、まず、競合との差別化ができ真似されにくい商材として、国産の有機食品や健康食品の開発を行っているというところでしょう。食品は雑貨などとは違い、衛生的に加工・保管・流通できる環境が必要で、賞味期限もあるので在庫管理も難しくなります。国産で有機というところも差別化ポイントです。
さらに、個々の生産者に会いに行って商品を開発しているというところも重要です。インターネットを通じて多くの情報にアクセスできる時代ですが、逆にアナログでしかないつながりというのは、真似されにくい関係の作り方です。
PB商品の商材探しとしては、他に展示会なども機会になりますが、展示会には多く名の知れた企業が出典、来場しているため、すでに他社が扱っている、同時に複数社が扱いを開始する可能性が高くなります。そのことを頭に留めて、なるべくそうならない商品を探したり、交渉したり、+αで何らかの工夫をしたりということが必要になるでしょう。
また、業界の特徴、業界ごとの違いを知るためにも、展示会や勉強会などは有効です。たとえば食品業界では、ECでの事業というのはそこまで浸透しておらず、EC店舗だけだとあまり信用されないこともあるそうです。一方で同じ食品でも健康食品では、それなりにECという手法が広まっています。
まだECがあまり浸透していない業界というのは、業界の中での関係性作りは丁寧に行わなければなりませんが、先に関係性を作ることができれば、他社が追従しにくい状況を作ることができるでしょう。
逆にすでにECで強いブランドがあるジャンルは、PB商品には向かないか、別のアプローチ法を考えなければなりません。また、これは健康食品によく見られるパターンなのですが、他の企業が売れているようだから同じ商材でPB商品を作るというのは、おすすめできません。一時は売上が上がるかもしれませんが、大抵が業界全体で供給過剰になって大きく値下がりしがちです。
食品の他に参入障壁があり真似されにくい商材としては、許認可が必要な化粧品や医学部外品などがあげられます。大手企業ではすでにブランド展開されていますが、スタートアップや中小規模で、転売ビジネスからの展開となると、そう簡単に真似はされない商材です。
繰り返しになりますが、PB商品の開発には、誰でも簡単に参入することができないジャンルで、まだ他社のブランドが確立されていない商材、他社がすぐに真似のできない時間や関係性が必要なものといったふうに探していくと良いでしょう。
もちろん、その分準備に時間や人手、コストはかかるのですが、手軽に始められる商材は、他の人にとっても手軽なものです。またできれば、ただ真似されにくい商材というだけでなく、自分にとって思い入れが持てるものの方が結果的により差別化が図れます。
PB商品を成長させるためにアウトソースを活用する
EC事業というのは、少人数で回していることが多いものです。PB商品の開発は、開発にも前述のような時間や人手、コストがかかりますし、他にない商品ということは、商品撮影や画像作成、テキストなどコンテンツの作成も一から行う必要があります。少人数でどこまでの作業をこなせるのか、どのぐらいの時間がかかるのか、それも懸念点になるでしょう。
そこで重要なのが、日常の業務の効率化です。先ほど紹介した事例のT社では、受注から物流倉庫での作業、出荷まで、すべて外部のサービスを利用していました。そのため、日々の注文に対してはノータッチで、在庫状況に合わせた商品の発注のみ行い、後は新たな商品の開発やプロモーション、コンテンツの作成などに力を注ぐことができています。だからこそ、数人運営でも売上を伸ばしていくことができるのです。
たとえば、ウェブコンテンツ作成や広告の内容などは、売上に直結する部分であり、商品に深く関わる部分なので、その商品をよく知っている人、つまり自社できちんとこなしてノウハウを蓄積していった方が良いでしょう。一方で、出荷関連業務は、ミスなくきちんと出荷ができるのであれば、効率化を進めていきたい部分です。梱包作業などに関しても、プロに任せた方がキレイにできます。
Amazonのみに出店している段階ではあまり必要がないかもしれませんが、PB商品を開発し、複数店舗や自社サイトの展開など、自社ブランドに注力していきたいのであれば、そういった業務の効率化もいずれ考えた方が良いでしょう。