2018年4月25日、経済産業省より「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」の平成29年度版が発表されました。

定期的に発表されているこの調査は、EC業界の現状と今後の動向を考える上で欠かせないデータです。今回は、この調査より、B to C-EC業界のことをメインに、重要な点をまとめます。

継続するEC市場の成長とその要因

2017 年の B to C-EC 市場規模は、16 兆 5,054 億円となり、前年比 9.1%増。EC 化率は、5.79%で対前年比 0.36 ポイント増(※EC 化率は物販分野を対象としたもの)。

この数年のデータと比べても、EC市場がペースを落とすことなく成長を続けていることが分かる。ただし、物販分野のEC化率は若干の落ち着きを見せています。しかし、目立ったマイナス要因は見られないため、次年度以降の動向と合わせて注視すべきところです。

2017年のEC市場の成長の要因として考えられているのが次の3点です。

・個人消費の復調
・小売業が好調を維持
・スマートフォンの利用者・利用年代の拡大

個人消費の復調は、2017 年の実質 GDP が 4 四半期連続でプラス成長している点、また、総務省統計局発表の「家計調査」に基づき、「財(商品)」に関する支出がプラスに転じていること、「サービス」に関する支出が下げ止まり傾向を見せていることからもうかがえます。

小売業の好調は、内閣府発表の景気動向指数における商業販売額(小売業)の対前年同月比を見ると分かります。2017 年、前年同月比がマイナスとなったのは 10 月のみ(▲0.2)で、年間を通じて極端な変動がなく、全般的に好調を維持しています。

そして、この数年、EC業界で話に上がらないことのない「スマートフォン」については、2017年においても重要な点になっています。

知っての通り、ここ数年スマートフォンの利用は急激に拡大しており、2016 年末には 57.9%と前年比で 3.6%増となっています。この時点では自宅のパソコンが58.6%とわずかに上回っていますが、2017 年末は拮抗、またはスマートフォンが自宅のパソコンを逆転している可能性が予想されています。

スマートフォン利用の拡大と共に注意すべきなのが、世代間のスマートフォンの利用率の差が縮まっていることです。

総務省発表の通信利用動向調査によると、人のスマートフォン保有状況 は、2014 年末点から2016年で、次のように変化しています。「スマートフォンは若い世代が使うもの」とは言えなくなっている状況です。

20 代 87.5%→94.2%
30 代 78.0%→90.4%
40 代 63.8%→79.9%
50 代 41.8%→66.0%

さらに、若い世代よりも年齢が上の世代の方が、消費支出が大きくなります。総務省統計局の家計調査によると、世帯主が 20 歳代の世帯の1カ月の消費支出が 165,287 円なのに対し、50 歳代は 304,265 円となっています。

消費支出の大きい高齢者層がスマートフォンを利用するようになることで、今後はこの層によるスマートフォンを通じた購入が、物販系 B to C-EC 市場拡大の中で大きな影響力を持つ可能性が大いにあります。

なお、タブレット型端末の利用も、23.6%で前年比5.3%増と拡大を続けています。スマートフォンだけでなく、タブレット型端末なども含めたあらゆる端末に対応するレスポンシブ対応が、やはりECサイトに求められているのではないでしょうか。

物販系 B to C-ECの成長分野

物販系 B to C-ECには、次の分野があります。

(1) 食品、飲料、酒類
(2) 生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等(オンラインゲーム含まず)
(3) 書籍、映像・音楽ソフト (書籍には電子出版含まず)
(4) 化粧品、医薬品
(5) 雑貨、家具、インテリア
(6) 衣類、服装雑貨等
(7) 自動車、自動二輪車、パーツ等
(8) 事務用品・文房具
(9) その他

この分野を、市場規模の大きい順に5つ並べると、次のようになります。この5つの分野は全て 1 兆円以上の市場規模があり、合計すると物販系分野の 85%を占めています。

衣類・服装雑貨等:16,454億円
食品、飲料、酒類:15,579円億円
生活家電・AV 機器・PC・周辺機器等:15,332億円
雑貨、家具、インテリア:14,817億円
書籍、映像・音楽ソフト:11,136億円

2016 年と比較した際の伸び率が高い順に並べると、次のようになります。

雑貨、家具、インテリア:9.8%
事務用品・文房具:8.2%
化粧品、医薬:7.6%
衣類・服飾雑貨等:7.6%

また、EC 化率が高い順に並べると、次のようになります。

事務用品・文房具:37.38%
生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等:30.18%
書籍、映像・音楽ソフト:26.35%
雑貨、家具、インテリア:20.40%

物販系B to C-ECにおける成長分野の注目動向

上記の物販系B to C-ECの成長分野において、2017年、特に注視すべき動向を紹介していきます。

衣類、服装雑貨等

B to C-EC における物販系分野の中でも市場規模が大きく、好調な分野と言えます。B to C-EC の売上の約半分程度はアウターウエア、次いで服装雑貨系(靴、鞄、宝飾品等)、インナーウエアが続いています。

衣類、服飾雑貨等を扱ういわゆるアパレルEC業界において、2017年に話題となったのが、ZOZOTOWN を展開するスタートトゥディが相次いで打ち出した、「ツケ払い」、「採寸ボディスーツ」、「送料自由化(※2017 年 11 月 1 日廃止」といった独自の取り組みです。

また、いまやEC業界を語る上で欠かせない影響力を持つアマゾンジャパンは、 2017 年秋に、新たにアパレル専用の物流拠点「アマゾン藤井寺フルフィルメントセンター」を構築しました。Amazon.co.jpにおいても、アパレルは大きな流通量を持つ分野であるようです。

アパレルECのユーザーは女性が多く、市場規模ベースで男性と比較すると女性は 2 倍以上と推定されています。特に 30 代の女性による購入が多いようです。ただし、男性も 20 代、30 代を中心に徐々にネットでの購入が定着しつつあるようです。今後は、今はまだメインのユーザー層ではない男性や女性の中高齢層を取り込むことで、市場規模がさらに拡大する余地があります。

アパレルECの特徴として、スマートフォン経由の市場規模が B to C-EC の 50%以上を占め、物販系分野の中で最も高い数値と推計される点もあげられます。アパレルECは、スマートフォンと相性の良い分野のようです。

また、今後注視すべき点として、フリマアプリの市場があります。フリマアプリで取引されるさまざまな商品の中でも、衣類や服飾雑貨は大きな割合を占めるからです。2017年時点では明示できるほどの大きな影響は見られていないようですが、今後、B to C-ECにどのような影響があるか注視すべきところでしょう。

食品、飲料、酒類

国内の物販系分野でリアル、ネット全てを含む商取引市場規模が最も大きい分野。2017 年は推定 60 兆円以上の見込みで、個人商品全体の約 4 割を占めます。EC 化率は他の分野より低いですが、これはEC 化率の分母である推定商取引市場規模が巨大であるためであり、EC化率が遅れているわけではありません。

売上の大きい企業としては、次のような事業者があげられます。

・GMS 等の店舗型小売業者によるネットスーパー
・ネット販売に特化した(またはネット販売をメインとした)ネットスーパー
・飲料専門事業者
・ミネラルウォーターや酒類を専門に取り扱う事業者
・菓子類の販売事業者
・健康食品の販売事業者

売上状況を見ると、ネットスーパーが全体を牽引しているようです。また、この分野で注目の動きといえば、アマゾンジャパンが提供している生鮮食品の販売サービス「Amazon フレッシュ」。こういった大手のサービスにひっぱられる形で、消費者のニーズを反映して、より利便性の高いサービスが生まれてくるのではないでしょうか。たとえば、定期便のようなリピート購入サービス、バランスの良い栄養を獲れるよう考えられたミールキットなどのも、その流れの中にあります。

また、食品の中でも健康食品分野も売上が着実に拡大しています。健康食品のメインユーザーは高齢者ですが、これまではテレビ通販やカタログ販売等を見て注文していたのが、ネット購入に移行することで、B to C-ECの市場が大きくなっています。

また、ダイエットや美容は、健康食品分野における重要な存在です。ただし、2017 年に「ダイエット」「美容」といった効果を謳う機能性表示食品に対して初の行政処分が下されたこともあり、商品を売りたい気持ちはもちろんとしても、販売者側には広告の際の慎重な対応が求められます。

化粧品、医薬品

推計対象は、化粧品全般、医薬品、および美容・健康関連器具。市場規模が堅調に拡大している分野です。中でも注目なのが、医薬品。市場規模はまだ小さいものの、売上が前年比で約 30%増と大きく伸びています。

化粧品は種類が多く、製品の訴求ポイントもさまざま。さらに、販売チャネルも多数あるため、EC 化率が他の商品カテゴリーより低い状態が長年続いてきました。しかし、近年、SNS や口コミサイトを参考に B to C-EC によって商品を購入する若い世代も増えているようです。また、スマートフォンによって、若い世代の女性が手軽に化粧品をB to C-EC で購入する傾向も見られ、B to C-EC市場における存在感が高まっています。

また、化粧品業界の傾向として、ここ数年新規参入が相次いでいることや、訪日外国人をターゲットとした販売が好調である点があげられます。まだまだ伸びる余地はある分野と言えるでしょう。

また、医薬品に関して、2014 年 6 月の薬事法等の改正の施行により、(一部を除く)一般用医薬品のネット販売が解禁となりました。医薬品のネット販売と言えば、2013 年 1 月に最高裁判所より出された判決により、第 1 類・第 2 類医薬品のネット販売が認められる流れになりました。

その他、美容・健康関連器具も含め、市場規模の拡大が予測される分野です。

2017年B to C-EC業界の重要トピック

2017年から2018年のEC業界の動きを知る上で、おさえておきたいトピックとして、次のものがあります。

物流問題

2017 年は、宅配便事業者による配送料金値上げが相次ぎました。その背景には、宅配便事業者の荷受量の急増と人手不足があります。これに対応するために、配送料金の値上げ要請や荷受け量の総量規制、時間帯指定配達の見直し、宅配ボックスの利用等が進められるようになりました。

特に国内 B to C-EC 事業にとって大きな関心毎が、配送料金の値上げでしょう。これまで多くの事業者が「送料無料」を掲げてきましたが、それを止める事業者と継続する事業者で大きく分かれ、事業者によって対応がそれぞれ異なります。

いずれにしても、これまで通り「何もしない」というわけにはいかず、様子見だった事業者も2018年には何らかの対応を迫られるのではないでしょうか。

SNS 、インスタグラムのブーム

SNSの存在感は年毎に大きくなっていますが、2017年は、特に、流行語大賞に「インスタ映え」が選ばれたように、Instagram の存在感があった年でした。

Instagram は写真ありきの SNS ツールで、商品のコンテンツとしてテキストだけでなく、写真も重視することが求められます。また、Instagramを始めとしたSNSは、EC 事業者側から発信される情報だけでなく、SNS の利用者が発信し、相互のコミュニケーションができるのが特徴の一つです。SNS は、検索サイトと同様に商品検索のツールとしても浸透してきており、SNSアカウントを運用しないとしても、自社の商品がどのように検索されているか把握するなど、何らかの対策が求められます。

ライブコマースの活用

商品の宣伝をインターネットでライブ配信し、視聴者が配信画面から商品を購入するスタイルの販売方法。中国で、著名なブロガーやインフルエンサーにより拡大した経緯があります。

2017 年は、国内の大手 EC プラットフォーム事業者を中心にライブコマースが立ち上がり始めた年でもありました。事業者は、生の声で商品の良さを伝えることができ、視聴者は、より詳細な情報を視聴者は得ることができます。ライブコマースにおいては、視聴者からの質問をリアルタイムで受け付ける対話型の機能を備えている点も特徴です。

ライブコマースに関する注意点としては、リアルタイムでの配信であるため、公序良俗に反しないことや社会通念上不適切と捉えられかねない発言、行動を防止するための方法を準備しておくことです。

クレジットカード決済の不正利用防止策

インターネット上の主流な決済方法は、クレジットカード払いです。便利な一方、カード情報の漏えい、不正利用などのリスクも小さくありません。

現在、一般財団法人日本クレジット協会が中心となって設立された「クレジット取引セキュリティ対策協議会」による、「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画」が行われています。

この計画では、①カード情報を不正使用者に入手させないための対策、②カード不正使用を防止するための対策を取りまとめています。

これに基づき、昨年、対策をされた事業者も多いのではないでしょうか。ECに関しては、基本的に対策は完了しているはずですが、抜けがないか確認はしておきましょう。

2018年以降のEC業界で成長を続けるために
以上のデータを基にして、2018年のEC業界で成長を続けるために何が必要かと考えると、いろいろなことが考えられますが、大きなところとしては、物流問題への対策と、スマートフォン利用の定着とそれに伴うECの利用方法の変化への対応ではないでしょうか。

物流問題に関しては、自社だけで解決しようとせずに、代行サービスなどをうまく活用していくことをおすすめします。

スマートフォン利用の定着については、まずは自社のメインユーザー層を明確にすると共に、その世代のスマートフォンの使い方に合わせた施策を優先すべきです。これまではPCを前提に考えていたところを、スマートフォン前提に考え方を変えることが求められるでしょう。

また、取り扱っている商品の分野ごとにも、重要なトピックや必要な対策が変わってくるので、EC業界全体の動きと、もう少し範囲の狭い各分野の動きとを合わせて見るようにしましょう。

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